腸が食べ物を消化したり、栄養や水分を吸収していることは、よくご存知だと思います。では、「腸のほかの役割は?」と聞かれたら、「それ以外に何かあるの?」と思う方も多いことでしょう。これまで「構造も機能も単純な臓器」と思われてきた腸ですが、最近の研究では、免疫機能やホルモンの分泌など、からだ全体に関わるとても重要なはたらきも担っていることが明らかになっているのです。

腸の重要なはたらきの1つ目は免疫機能です。口から入った食べ物は、食道、胃、腸と運ばれながら消化が進み、腸で栄養や水分が吸収されます。このとき、何でもやみくもに吸収しているわけではなく、それが味方(栄養素)なのか、敵(病原菌などの異物)なのかを識別する機能が備わっていることがわかってきました。これは、かぜをひいたときの鼻やのどと同じようなしくみで、腸は異物に対する関所であるともいえるのです。腸に病原菌が入った場合、免疫機能がはたらいて菌を攻撃するだけではなく、せきやくしゃみのように異物を体外に出そうとするしくみがはたらくので、感知した場所が胃などの場合は嘔吐、腸の場合は下痢となるわけです。
関所としての腸

福土 審 先生 ご監修
重要なはたらきの2つ目は、ホルモンを分泌することです。ホルモンが発見される前、いろいろな臓器は脳からの一方通行の命令だけで動いていると考えられていました。ところが、英国の生理学者ベイリスとスターリングの研究1)で、脳とは独立した命令系統があることがわかり、命令を伝える物質はホルモンと名付けられました。
ベイリスたちが最初に発見したホルモンは、実は腸(十二指腸)で合成されるセクレチンでした。その後の研究で、血糖値に関わるインクレチンや胆嚢の収縮に関わるコレシストキニンなど、多数のホルモンが腸で作られることがわかっています。腸は、甲状腺や膵臓のような、重要な内分泌臓器ともいえるのです。
1)Bayliss WM, Starling EH: J Physiol. 28(5): 325-353, 1902

口から体内に入った細菌のうち、有害なものは免疫機能で排除されますが、そうでないものは腸の粘膜に定住します。いわゆる腸内細菌です。乳幼児のころから少しずつ増えていき、成人では約1000種類、100兆個以上になるといわれています2)。顕微鏡で見たときのようすがお花畑に似ていることから、腸内フローラと呼ばれるようになりました。
ストレスなどにより、宿主である人の体調が変化すると、腸内細菌もその影響を受けて数が減ったり、増えたりします。一方で腸内細菌も、自分が増殖しやすい環境を作るために腸の粘液分泌を抑える物質を出して、腸内環境のバランスを整えようとしています。宿主である人と、腸内細菌は、相互に影響を与えながら、共生関係を築いているのです。
また、腸内細菌の種類と数は、人によってそれぞれ異なり、一生にわたって同じ種類の菌が棲み続けると考えられています。こうしたことから、病気の治療法として、ほかの人の腸内細菌を腸に移す「腸内フローラ移植(便移植)」という方法も研究されています。
2)Sekirov I, et al.: Physiol Rev. 90(3): 859-904, 2010