慢性便秘症
過敏性腸症候群
機能性胃腸症

腸にまつわる超すごい話 の不思議な関係

東北大学大学院医学系研究科 行動医学分野 教授/東北大学病院心療内科 科長 福土 審 先生

その3 緊張するとおなかが痛くなるのはなぜ?

腹痛の原因はホルモンにあり

 人前で何か発表しなければならないときに胸がドキドキしたことはありませんか? 大事な会議や試験の前に、急におなかが痛くなったり、下してしまった、という人もいるでしょう。歴史書をひもとくと、古今東西の有名人もここぞという場面で急な腹痛や下痢に悩まされていたのではないかと思われる記述がみられます。
 ではなぜ、胸だけではなくおなかにまで影響がでるのでしょうか。これには、ホルモンが関係しています。

緊張で腹痛を起こしている女性のイラスト

脳から腸へ̶玉突きのように伝わる「命令」

 ストレスを感じると、あるホルモン(CRH ※1)が脳の奥のほうにある視床下部というところで増えていきます。CRHは別のホルモン(ACTH ※2など)を分泌させる役目を持っており、ACTHはさらに別のホルモンの分泌を促すはたらきをするので、ホルモンから別のホルモンへ、玉突きのように命令が伝わっていくのです。命令が胸(心臓)に届けば鼓動が速くなり、おなか(腸)に届けば腸の周りの神経が過敏になって腹痛がおこります。また、ホルモンの命令によって腸の動きが激しくなり、消化物がいつもより早く腸を通過してしまうと、消化物が腸に留まる時間が短いため、消化物の水分がうまく吸収されず、下痢になってしまうと考えられています。

※ 1 CRH(corticotropin-releasing hormone):副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン。副腎皮質刺激ホルモンの分泌を促す。
※ 2 ACTH(adrenocorticotropic hormone):副腎皮質刺激ホルモン。コルチゾール(糖分などの代謝に不可欠なホルモン)の分泌を促す。

ストレスが与える影響

脳腸相関を説明するイラスト

福土審, 内臓感覚 脳と腸の不思議な関係,p.125,2016,NHK ブックスより作成

腸から脳へ̶痛みだけではなく「気分」にも関係が

 その2でご紹介したように、腸から脳へ情報が伝わるしくみがあることがわかっていますが、最近では、感情や情動に関わる情報も腸から脳に伝えられているのではないかと考えられています。さらに、何度も同じ情報が伝えられると、腸と脳の間にいわば情報ハイウェイが作られ、それが無意識のうちに気分や行動に影響しているという説もあるのです。たとえば、小さいころに黒い物を見たときに何か嫌な経験(吐いてしまうなど)が続くと、その記憶が意識から消えても、無意識に黒い物を嫌だと感じたり、避けたりしてしまうというわけです。脳から腸へ、腸から脳へという情報ハイウェイは、わたしたちの生活に深く関与しているのです。

【腸は「第2の脳」】

監修医の福土審先生のイラスト

 最近の研究の結果、腸でたくさんの種類のホルモンや神経伝達物質が発見されています。また、一部の物質では、作られる量が脳よりも腸で多いこともわかってきています。たとえばセロトニンという感情に関わる神経伝達物質のおよそ95%が腸で作られています1)。残りは脳で作られますが、実は、この脳で作られるセロトニンも、腸からの材料(前駆体)をもとに作られているのです。
 さらに、腸には複雑な神経のネットワークが備わっていることもわかっており、多様で重要なはたらきを持つ腸は、「第2の脳(セカンド・ブレイン)」※として世界中の研究者から注目が集まっているのです。

※しかし腸の方が進化的には古いことに注意(詳しくはこちら)。

1)Hyland N, et al.: the Gut-Brain axis dietary, probiotic, and prebiotic interventions on the microbiota 1st ed., p.125, 2016,Academic press.