慢性便秘症
過敏性腸症候群
機能性胃腸症

便秘何でもQ&A

男女で便秘の発生率や原因、治療法に違いはありますか?便秘と寿命に関係があるって本当ですか?

1.便秘があると命にかかわる?

便秘があっても、「たかが便秘」と思って放置している人はよくいらっしゃいます。
実は、便秘が寿命と関連する可能性があることが最近の色々な研究でわかってきました。

米国で行われた研究では、中高年男性を対象として便秘と全死因の累積死亡率の関連が解析され、便秘がない方にくらべて便秘がある方では累積全死亡率と関連する可能性があることが示唆されました 1)(図 1)。

2010 年に行われた米国での別の研究 2)でも、20 歳以上の米国人(3,933 人)を対象に、便秘の方と便秘でない方を 15 年間にわたって追跡調査したところ、調査開始から 10 年目で 12% 以上、便秘の方ではそうでない方に比べて生存率が低下していたと報告されており、10 年目以降もその差は開いていきました。

このように、便秘は寿命に関連していることが示唆されています。

図 1 便秘と累積死亡率との関連(海外データ)

【対象と方法】
2004 年 10 月 1 日~ 2006 年 9 月 30 日(ベースライン期間)に推定糸球体濾過量(eGFR)が
60mL/min/1.73m2 以上の米国退役軍人 3,359,653 名を対象に、2013 年 6 月 26 日まで追跡して、便秘の有無 * および便秘薬の使用(なし、1 種類、2 種類以上)と、全死亡・冠動脈疾患・虚血性脳卒中の発症との関連性を検討した。

* 便秘薬の処方≧2 回または便秘の診断(ICD-9-CM による)≧2 回を便秘ありと定義。
Sumida K, et al. Atherosclerosis 2019; 281: 114-120.

2.便秘でいきむのは危険!

便秘の人は便が硬いので、排便するときに「強くいきまないと便が出ない」という人が多いの
ではないでしょうか。
この「強くいきむ」という行為が、血圧を急上昇させる “引き金” となる可能性があります。

高齢の方は、排便で血圧が急上昇しやすい

年齢を重ねていくと、血圧が高くなりやすくなると言われており、注意が必要です。
この図は、排便前から排便後の血圧の変化を見たものです。若い方ではほとんど変わりませんが、高齢の方では排便中から排便後もしばらく血圧が高い状態が持続したということが示唆されました 3)
血圧が急に高くなると、心臓や血管に大きな負担がかかってしまいます。
そのため、心筋梗塞や脳卒中などを起こす可能性が大きくなります。

図 2 排便による収縮期血圧の変化

【対象と方法】
日常生活動作がほぼ自立と診断された 76 ~ 98 歳の内科入院または外来通院中の高齢者 22 名と、19 ~ 26 歳の若年健常者 10 名を選択して、気温や日照時間に大きな差がない 6 ~ 9 月の 4 ヵ月間、30 分間隔で 24 時間血圧を測定した。血圧測定中の生活には制限を設けなかった。
赤澤寿美 , ほか . 自律神経 2000; 37: 431-439.

排便頻度と心疾患系の関係性に関しては、日本人(40 ~ 79 歳の男女 45,112 人)を対象に大規模調査が行われています 4)。13 年にわたって追跡調査したところ、排便回数が 4 日に 1 回以下の人は、1 回以上排便する人に比べて、虚血性心疾患で死亡する危険性が 1.20 倍、脳血管疾患で死亡する危険性が 1.90 倍ということがわかりました。

トイレで心停止が起こると発見されにくい

便秘が命にかかわる病気に影響する可能性があるだけでなく、「トイレ」も時に危険な場所となり得ます。
ある調査によると、心停止で救急搬送された人で発生場所が特定できた 794 人のうち、トイレで発生した人は 101 人でした。しかも、そのうち 10% の人しか発見されませんでした 5)

図 3 自宅や介護施設で発生した心停止の状況

【対象と方法】
2006 年 1 月~2009 年 12 月の 4 年間に、自宅または介護施設で心停止を発症し、救急搬送された20 歳以上の患者 907 名を対象に、その心停止の臨床的特徴を明らかにするために大学病院(第三次救急医療機関)で行われたレトロスペクティブ(後ろ向き)研究。心停止の発生状況は、同居人から聞き取った情報に基づく。
Inamasu J, Miyatake S. Environ Health Prev Med 2013; 18: 130-135.

ですから、排便時のいきみによって心筋梗塞等を引き起こさないためにも、あまり「いきまない」ようにするには、便をやわらかくして、正しい姿勢で排便することが大切です。特に高齢の方では血圧の急上昇が起こりやすくなるので、注意しましょう。

3.正しい排便姿勢で寿命の低下リスクを減らそう

便をスムーズに出すための、理想的な排便の姿勢があります。
35 度ほど前かがみになって、ロダンの「考える人」のようなポーズです。
なぜ、前かがみの姿勢が良いかというと、直腸と肛門の角度が広がるため、便を出しやすくなるからです。
いままで普通に便座に座っていた方は、姿勢をちょっと変えるだけで、いきまずに排便しやすくなるかもしれません。

   

便をスーッと出すワンポイント

前かがみになる

足先は床につけて
かかとを少しあげる

直腸と肛門の
角度が広がり、
便が出やすくなる

直角(90度)

山名哲郎(監修):NHK きょうの健康 便秘と痔の悩みを解消 セルフケアと治療 ,
NHK 出版 , 2014 を参考に作図

まとめ

便秘によるリスクを下げるには、まず血圧を上昇させないために、なるべくいきまずに排便できるようにすること。
そのためには、スムーズに便が出せるよう、正しい姿勢のキープを忘れずに!

  • 参考
  • 1) Sumida K, et al. Atherosclerosis 2019; 281: 114-120.
  • 2) Chang JY, et al. Am J Gastroenterol 2010; 105: 822-832.
  • 3) 赤澤寿美 , ほか . 自律神経 2000; 37: 431-439.
  • 4) Honkura K, et al. Atherosclerosis. 2016; 246: 251-256.
  • 5) Inamasu J, Miyatake S. Environ Health Prev Med 2013; 18: 130-135.