男女で便秘の発生率や原因、治療法に違いはありますか?

1.便秘で悩む男女の比率は?
厚生労働省により行われた 2019 年の国民生活基礎調査では、便秘の有病率は男性では 2.5%、
女性では 4.4% と報告されており 1)、男女差があることがわかっています。
また、年齢別でみると、思春期以前は男女差はほぼありませんが、思春期以降は女性の方が便秘に悩まされる人が多くなっています。
一方、男性は 60 歳から便秘を感じる人の数が急増し、80 歳以降になると男女の差はほぼなくなります。
図1 男女別・年齢別の便秘の有病率
厚生労働省「令和元年国民生活基礎調査」
2.なぜ便秘の有病率に男女差があるの?
女性の方が筋力が弱い
腸のぜん動運動に必要な腹筋や骨盤低筋群の筋力が低下していたり、肛門括約筋の力が弱いなどの場合、排便のメカニズムが障害されて、便を排出するのが困難になります 2)。一般的に女性は男性に比べて筋力が弱いことが多いため、いきむ力も弱い傾向にあります。そのため、便を押し出す力が男性より弱いといえます。

ダイエットの影響
食事の量が減ると、便の材料になる食物繊維や水分量が減ってしまいます。そのため、便が硬
くなり、便秘になりやすくなります 3)。
排便と関連する大腸の動きに男女差があることを調べた報告をご紹介します。
岐阜大学応用生物科学部の志水泰武教授らのグループによって行われた研究で、ラットの大腸に唐辛子などに含まれるカプサイシンを使って痛みの刺激を与えたところ、オスのラットでは大腸の動きが活発になりましたが、メスでは活発にならなかったことが確認されました。
大腸内に痛みの刺激を与えると、痛みをやわらげるために脳から神経伝達物質が出ますが、この神経伝達物質の成分がオスとメスでは違っていて、オスではドーパミンやセロトニンが放出されて大腸の運動が促進されました。一方、メスでは GABA とセロトニンが放出されたため、脊髄の排便中枢を抑制する作用がある GABA によって、セロトニンによる大腸運動の活発化の作用が抑えられたそうです。
この GABA ですが、卵巣摘出されたメスのラットで大腸ぜん動運動の活性化がみられ、卵巣ホルモンの関与が示唆されました。
この研究は、まだ動物による実験の段階ですが、男性に下痢が多く女性では便秘が多いという性差の原因の可能性の 1 つであることが示唆されました。
参考:Horii K, et al. J Physiol. 2021; 599: 1421-1437.

3.男女で便秘の症状や治療法は違う?
便秘の症状に男女差はない
便秘の主な症状として、毎日排便があっても、「残便感」や「排便困難感」を自覚したり、「兎糞状便または硬便」が挙げられます 3)。
症状の違いや重さについては個人差がありますが、男女の違いによる特性はありません。
男女問わず治療法は同じ
慢性便秘に対する治療で男女の違いはありません。「便通異常症診療ガイドライン 2023-慢性便秘症」 3)では、内科的治療が示されています。
慢性便秘症の治療目的(目標)は、完全自発排便の状態へ導き、その状態を維持することとQOL の改善にある、とされています。
治療としては、生活習慣の改善や食事指導・食事療法を行い、改善が見られない場合には、薬物療法などの保存的治療が行われます。保存的治療で症状が改善しない場合に、外科的治療などが行われます。
慢性便秘の治療は、男女の違いではなく、それぞれの個人の症状や原因に応じて適した治療法が選択されます。

4.まずは、便秘のリスクをチェックしましょう!
一般的に女性の方が男性より便秘になりやすい傾向にありますが、年齢や個人差があります。男性でも女性でも便秘の症状が気になる場合は、まずは便秘度をチェックしてみましょう。
便秘は女性の方が多くみられますが、高齢になると男女差はみられなくなります。便秘の症状や治療法は男女関係なく、それぞれの方で違います。医師と相談しながら、ご自身の症状に合わせた方法で便秘の改善に取り組みましょう
- 参考
- 1) 厚生労働省「令和元年国民生活基礎調査」
- 2) 眞鍋紀明 , ほか . 日消誌 2018; 115, 950-958.
- 3) 日本消化管学会 ( 編 ).便通異常症診療ガイドライン 2023-慢性便秘症